この旧タイプの縫製の作業服(迷彩服)の、最大の特徴は何と云っても、ファスナー式である事です。世界的に一般的なボタン式と比べての、利点は何も感じられませんでしたが、ファスナーが壊れて困った、という事を一度も聞かなかったのは、日本のファスナーメーカーの技術の高さを物語っている。
ただし、この為にか、裾をズボンにたくし込む着装方法だったのは、野戦に於いては全く実用的ではなかったと、断言出来る。とはいえ、愛着のある服です。
頭に被っているのは、プラスチック製のヘルメット。「ライナー」と呼んでいます。作業現場の安全帽と同じ役割で使用しますので、車輌に乗る時は必ず着用します。他、一般の作業や災害派遣時に着用しているのは、このライナーで、皮のアゴ紐が付いてます。
鉄帽を被る時は、ライナーを鉄帽の下に組み込んで、内帽として着用します。鉄帽には迷彩柄の布カバーをかけてます。これは20年くらい前の写真で、迷彩柄が古いパターンです。ライナーの内側の様子が解りますね。この写真では、ライナーの革紐は鉄帽との間に挟み込んでますが、下の写真では、鉄帽の庇に巻き付けてあり、こちらが正式です。
鉄帽を頭部と固定するのに、上の写真では布紐が使われてます。これは鉄帽と一緒に国から支給される「官品」のアゴ紐。それぞれ左右の布紐でアゴを挟んで結わえますけれど、直ぐに緩みます。
なので、この紐は新兵の時か、パレード行進の時くらいしか、使いません。それまでは無くさないように(国の物だから!)、小物入れに保管します。それじゃあ、普段はどうしてんだって、云えば、それぞれに自分の財布のお金で、民生品のアゴ紐を買うんです。
民生品のアゴ紐を付けて、訓練中の所。スナップ式で着脱がし易く、紐も丈夫です。何故始めからこれを正式化して支給しないのか、全く謎です。一度正式化してしまった装備は、中々変更されないのは、旧軍もそうだったようで、非常に日本的です。
鉄帽には偽装網をかけてます。冬だったので、この迷彩柄では目立つとて、麻袋を裂いたキレを持って行って、勝手に結わえて冬仕様にしてありますが、別段怒られませんでした。
10年くらい前、新型小銃の取り扱い説明を受けてる所。現職の教官の頭には、新型のヘルメットが乗っかってます。手前は予備役隊員なので、まだ旧タイプ。服も旧タイプの作業服ながら、サスペンダーは新型と、新旧混合してた時代です。
さて、ここが本題なんですが、手前の隊員のヘルメットの縁に、黒いクリップが付いてるのが、お解りでしょうか。これは何の為の物かと云えば、ライナーと鉄帽を密着固定させる為のクリップです。
これが無いと、アゴ紐を付けていても、例えば駆け足などした時に、上下動の度に跳ね上がる鉄帽が、ライナーと衝突して、頭をガンガンと叩き続けるのです。或は、地面に伏せた途端、ライナーから鉄帽がズリ落ちて視界ゼロ、なんて事にもなる。
よく考えれば、そもそも、重たい鉄の帽子を、細い布紐を2カ所に付けただけで、頭に固定出来る訳が無く、構造的に大きな欠陥があった訳ですが、辛抱強い日本の自衛官は、これを約半世紀の間、クリップの力をかりて我慢して来た訳で、これこそ自衛隊の最高機密に属したかもしれない。
私は新隊員でこれを経験し、元々ある程度、自衛官である事に自虐的な意識はあったけど、ここまでひどいかぁって、落胆したものです。つまり、鉄帽とライナー同士の固定、鉄帽と頭との固定、この2つとも不完全なまま、激動の20世紀の冷戦時代を乗り切れたのは、ただただ、運が良かったとしか、云う他ありません。
現在使われてる、新型ヘルメット(写真は同型の海自仕様)。ライナーは無く、固定も3点式でしっかり頭に固定出来、これでようよう普通に作業出来るように、なりました。
匍匐すると、ずれ下がってオムツになる戦闘服、固定出来ないヘルメット、など、私の時代にもし、戦闘行動の現場に直面した場合、飛んで来る敵の弾より先ず、自分のお尻と頭の事の心配をせねばならなかったのは、恐ろしい事です。
色んなデータや政治思想などで、外から語られる事の多い自衛隊ですが、実際の自衛隊が、それぞれの時代に於いて、どういう存在、位置付けであったかが、その時代の服装装備、例えばアゴ紐一本でも解ろうというものです。
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